更新日:2021年08月24日
続・「生き残る」ための飲食店経営術
第3回
お客様の「共感」を
意識した販促を
飲食店コンサルティング企業・株式会社FBA代表取締役の石田義昭(いしだ・よしあき)氏による「『生き残る』ための飲食店経営術」の続編を3回シリーズでお届けします。第3回は、コロナ禍の収束を見据えた2021年下半期以降の集客・販促策の切り口について解説いただきます。石田氏は、社会の一員としての飲食店としての振る舞いを意識し、社会の変化にフィットした施策が必要だと説きます。
コロナ禍の収束を見据えて店舗を再始動するとき、様々な販促を考えると思います。その際、お客様から選ばれる店になるために欠かしてはならない視点についてご説明します。この先、自粛ムードが和らぎ、消費者の外食機会は増えると予想されますが、コロナ禍の完全な終息はまだ先の話で、多くの消費者が制約の中で、ルールを意識した生活を続けることになるでしょう。このため、社会の一員として、社会や地域のために何ができるのかを意識して、その姿勢を販促などに組み込んでいくことが必要です。
例えば、メニューの全品半額や低価格の飲み放題など、価格をテコにした過度な集客は避けるべきでしょう。「自分の店さえ流行ればよいのか」と、ひんしゅくを買う可能性が高いです。それでは、何をすればよいのでしょうか。あくまで例にはなりますが、今の時代に合わせた販促やメニュー開発の切り口を下図にまとめましたのでご覧ください。
社会の変化を踏まえた
販促や新メニューの切り口例
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個別対応
おひとり様プレート2人前以上で提供していたコース料理などを個食対応にアレンジ。
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時差出勤
朝ディナー・ブランチ時差出勤は今後も当たり前の出勤スタイルになる。モーニングとランチの中間時間帯を狙ったメニューの開発を。
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リモートワークマスク着用
免疫力向上メニュー会話時もマスク着用が必須となり、従来は食後のニオイを気にしていた女性客などもニンニクやネギなどを使った料理を注文している。
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ワクチン接種
接種証明提示サービスワクチンを接種した人に対する店からの労い。ソフトドリンク、アルコール(提供可の場合)を接種1回目なら1杯、2回目なら2杯サービス。
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安心宴会
PCR検査キット付き宴会ホテル業界で導入が始まっている。事前に検査を受けることで、感染していない人だけが宴会に参加している安心感がある。
“マスク社会”が
メニューの売れ筋を変えた
上の例に挙げたワクチン接種者へのドリンクサービスは、一部のチェーン店で導入されている施策です。この販促では、サービスの対象を広げ、「医療従事者の方はスタッフにお声かけください。ささやかながら店から感謝の1杯をサービスします」などとしてもよいでしょう。コロナ禍で医療機関に弁当などを差し入れした飲食店が多くありました。そのような地域貢献の取り組みに倣って、日々の営業でできることを実行していくこともできるわけです。さらに、対象をエッセンシャルワーカー全般に広げる手もあります。こうすると、ワクチン接種者を含め、ほぼすべての来店客にワンドリンクをサービスすることになります。しかし、ただの「ご来店でドリンク1杯無料」とは、サービスの意味合いも、お客様が店に対して抱く印象も全く違ってきます。社会の状況に合わせた販促とは、独りよがりではなく、消費者から共感してもらえることが大切なのです。
メニューについては、第1回で、「本物」や「単純」の観点で見直しをするようお伝えしました。これに補足をします。飲食店にとってのキラーコンテンツともいえる、独創性の高い看板メニューを持たない店舗の場合、これを機に看板メニューの開発に取り組んでみましょう。1グループ90分以内といった利用時間の制限が設けられている期間には、看板メニューを含むセットメニューを用意しておくと、お客様は注文しやすくなります。
新メニュー開発に当たっては、料理や食材の流行りについての情報収集が欠かせません。SNS映えする、インパクトのあるメニューは今後も人気が続くでしょうが、実はコロナ禍によって、売れ筋の傾向にも変化があります。上の例に書いたように、ランチ時にも、ニンニクなどニオイの強い食材を使ったメニューの注文が増えています。女性客の注文も多いそうです。リモートワークが主体となり、人と話をするときにマスクをするようになっているため、ニオイを気にせずに注文できるからだと思われます。一種の「マスク効果」です。
この変化は、免疫力アップや食欲増進をテーマとするメニューの開発に生かせるはずです。できれば、さらにもう一段、掘り下げてみましょう。ニンニクにも「黒にんにく」「熟成にんにく」など様々なブランドや品種があります。ニラなどの野菜も、魚介類も同様です。「品種にこだわる」「免疫力アップが見込める地元産の食材だけでメニューを作る」、逆に「キノコ類など刺激の少ない食材だけで免疫力アップメニューを作る」など、特徴を明確にするとよいと思います。
宴会でも個食対応を急ぐ
宴会メニューついてもコメントをしておきます。本来、宴会の多い年末は、飲食店の書き入れ時です。今後の感染状況にもよりますが、今年はまだ大人数での宴会は手控える動きがあると想定しておいた方がよいと感じます。仮に大人数での宴会が可能な状況になったとしても、一つの鍋をみんなでつつくスタイルの宴会料理は敬遠されます。盛り合わせで提供していた料理は個別盛りに変える、トングや菜箸は参加者1人ずつ用意するといった配慮が求められます。宴会には、感染リスクを気にして出席したくないけれども、義理で仕方なく参加している方がいます。そのような声なき参加者の懸念も汲み取った対応が必要です。
デリバリー業者の参入が増え、
手数料が動く!?
売上高をコロナ禍前の水準まで戻すのは、やはり並大抵のことではありません。売り上げの穴を埋めるために、引き続き、テイクアウトやデリバリーの導入や強化を検討する必要があるでしょう。第1回の冒頭で説明したように、テイクアウトが多いファストフードは、コロナ禍でも好調が続いています。需要はあるということです。
デリバリーとテイクアウトについては、「失敗しないデリバリー&テイクアウトの秘訣」とのタイトルで一度、ノウハウ性を知りました。コロナ禍が収束したとしても、この需要が急に冷え込むとは思えません。これが最初の理由です。「家族のレジャーをデリバリーする」という発想で、煮る、焼くといった最終加熱だけをすればよい半加工のミールセットなどをメニューに加えるなど、アイデア次第で中食の需要はもっと開拓できるはずです。
そしてもう一つ、デリバリーの業界環境に変化の兆しが出ています。自前で設備とスタッフを揃えずに、デリバリーをアウトソーシングする上での最大のネックは、30%を超える高率の手数料でした。しかし、専門業者の新規参入が増え、このコストが下がる可能性が出てきました。
米国ではUber Eats(ウーバーイーツ)を押さえてシェア首位である米DoorDash(ドアダッシュ)が日本に参入し、2021年6月に仙台市でサービスを始めています。地方都市を中心にネットワークを拡大していく見込みです。DoorDashに対して飲食店が支払う手数料は、米国の場合20%程度で、Uber Eatsに比べると10ポイント程度低い水準です。競合状態が明確になってくれば、手数料率を下げて対抗する業者が出始めると思います。飲食店にとっては、それだけ導入のハードルが下がることになります。手数料についての情報収集を欠かさないようにしてください。
「脱・使い捨て」に
知恵を絞る
今回の連載では、社会の変化を踏まえた販促が必要だとお伝えしてきました。この視点が重要なのは、デリバリーやテイクアウトでも変わりません。私が有望だと感じているのは、かつて米国で「コンテナプレミアム」と呼ばれた、使い捨てではない容器に料理を盛りつけたテイクアウトやデリバリーです。飲食店もSDGs(持続可能な開発目標)と無縁ではなく、環境問題への関心の高まりによって、喫食後にはごみになってしまう使い捨て容器を使用することに抵抗を感じるお客様が大勢います。ここに商機があります。
食べた後にも自宅で使いたいと感じてもらえる容器や食器を、テイクアウトやデリバリーに用いるのです。スイーツ店が陶器にプリンやゼリーを入れて販売したり、華やかな絵柄の漆器にお節料理を詰めて販売したりするのと同じイメージです。容器選びはアイデア勝負です。地元に食器屋さんや工芸店などがあれば、そこにオリジナルの容器を作ってもらうと独自性が出ますし、地域経済を回すことにも貢献できます。容器代は商品単価に乗せておき、「後日、店にお持ちいただければ500円(器の原価分)を返金します」としてもよいでしょう。寿司の出前で使う寿司桶を不潔だと言う人はいませんよね。回収した容器を洗浄・消毒して店舗で使用すればよいわけです。
キッチンカー参入は
費用対効果を考えて
なお、最近、新たな販売チャネルとしてキッチンカーが注目されています。軽トラックなどに簡易キッチンを設置して、作り立てのテイクアウトメニューを提供する移動販売です。私は、費用対効果の面で、キッチンカーはお勧めしていません。オフィス街のランチ時に、キッチンカーの前に人が並んでいる光景を目にしますが、列の動きを注意深く観察してみてください。コンビニのレジ待ちと違って、列がなかなか動かない店が多いです。
注文を聞いてから1食分の最終加熱をし、容器に詰め、会計をすると1人5分間近くかかります。書き入れ時であるランチタイムの1時間で12食。一度に複数の注文をする人がいたとしても20食程度です。オフィス街は土日に稼働できませんし、春と秋の大型連休、お盆、年末年始などがあるために、営業日数が半分以下という月もザラにあります。そのために数百万円をかけて投資をし、私有地の使用料を払ってどれだけの利益が出るでしょうか。休日に人が集まるイベントは出店料が高額ですし、今はそもそも密が敬遠されていますので、集客力の高いイベント自体が存在しません。
共感を呼ぶ店を作る
今回の連載の第1回で、飲食店に対して補償金が支払われたことで、業界に対する消費者の視線が変化し、「業界から美談が消えてしまった」と申し上げました。実は、そのような状況でも売り上げが落ちなかった顧問先の店舗がありました。その店は、東日本大震災の教訓を生かして、マスクや消毒液、水などを備蓄し、それらをお客様に無料で配りました。「災害は次も必ず来る」と備え、その貯えをお客様とシェアした姿勢が、地域の共感を呼んだのです。
「選ばれる店」になるかどうかは、商品力だけではなく、店の姿勢そのものが問われます。飲食店の基本は高い商品力と気持ちの良い接客ですが、お客様から共感を得る店舗運営という視点を忘れずに、この難局を乗り切っていただきたいと願っています。
フードビジネスコンサルタント石田義昭(いしだ・よしあき)
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