「生き残る」ための飲食店経営術
第2回
失敗しないデリバリー&
テイクアウトの秘訣
講師は石田義昭(いしだ・よしあき)氏。フードサービスコンサルタント歴30年以上で、飲食店コンサルティング企業の株式会社FBA代表取締役。顧客心理に訴える具体的な戦術指導に定評があり、小規模店から大型店まで、直接指導店舗数は1,500店を超えます。アフターコロナを見据えた、ウィズコロナ時代に飲食店が生き残るために必要な心構えと具体的な施策について、3回にわたってポイントを解説していただきます。
第2回は、直近の売上高を確保するために、多くの飲食店が導入を始めた、あるいは導入を検討しているデリバリーとテイクアウトについて検証します。かつて出前をしていて、採算が合わずに出前をやめた飲食店であっても、改めてデリバリーを再検討すべき時期に来ていると石田氏は指摘します。
更新日:2020年10月26日
飲食店は、コロナ禍という業界全体が初めて経験する事態に直面しているのですから、今はまず、対症療法に注力して生き残りを図ることが必要です。その方法の基本が、前回申し上げたように、損益分岐点を引き下げながら公的資金による支援を受けることです。その際、直近の売り上げに直結する新たな収益源を探すことも必要です。
フードサービス業界を見渡せば、こんな時代でも売り上げが落ちていない有望分野があります。ご承知のように、テイクアウトとデリバリーです。ただ、これらの盛況ぶりを横目に手を出していない店舗には、それなりの事情があるのだと思います。特にデリバリーに関しては、「昔、出前をやっていたけれど、やめた」という店舗が多いはずです。
飲食店がデリバリーをやめた事情
コロナ禍になる前、フードサービス業界では、慢性的な人手不足に苦しみ、デリバリーから撤退する店が相次いでいました。「配達できる人がいない。時給を上げても人が集まらない」というわけです。都心にそば店を構えるオーナーが、「300万円も使って募集をかけたのに、問い合わせの電話一つ鳴らないんですよ」と嘆いていたのを覚えています。
そもそも、自分の店でデリバリーを手掛けると、人件費以外にも多くのコストがかかります。バイクや軽自動車の購入代、ユニフォーム代、日々のガソリン代などが必要です。それなのに、配達スタッフにとって店のバイクやクルマは自分の持ち物ではないから、大事に扱わない。角を曲がるときに電柱に車体をこすって傷付けてしまうことなど日常茶飯事。店の名前が書いてあるバイクやクルマの傷を放置しておくとイメージが悪いから、おカネをかけて泣く泣く修理をします。
事故が起きれば修理や保険の費用もかさみます。出費が多い割に利益が残らないということで、デリバリーをやめる店が増えていたのです。
デリバリー参入の落とし穴
ただ、コロナ禍になってから、人手不足の状況は、少なくとも東京では劇的に改善されています。
先ほどご紹介した都心のそば店は、コロナ禍になった後にデリバリーの人材募集をしたら、応募が80件もあったそうです。第1回で紹介したように、バイクを含めたデリバリー用の備品購入代も、行政からの補助が出るようになっています。以前に比べて、コスト面での負担は軽くなっています。売り上げの機会を求めて、デリバリーの再開や、新規参入を検討する余地が出てきたということです。
ここからはデリバリーの実践編です。デリバリーを始めると、失敗する店が必ず出てきます。それは、デリバリーの始め方や規模の広げ方が分かっていないからです。
通常、徒歩での来店を想定している店の場合、店を基点として、第一次商圏を300~350mに設定します。歩いて往復をするのに遠いと感じない直線距離がだいたいこの距離です。これ以上の距離になると、自転車やバイク、自家用車などの乗り物を使った来店が増えます。この300~350 mの範囲内が自店を認識してくれるお客さんが多いと考えて、デリバリーもこの範囲からの注文を狙います。サバーブ(郊外)の場合は店からクルマで5分圏内を第一次商圏とします。
ここで、やってはいけないことがあります。商圏に円を描いたエリア全体から注文を取ろうとしてチラシを撒くと失敗することが多いです。
ピークタイムには、チラシを撒いたエリアのうち、違う方角にある離れたお宅から、ほぼ同じ時間帯に注文が入ります。2件の注文が同時に入ると、1カ所の配達に、届けて10分、帰って10分。配達スタッフが1人しかいないと、どちらかのお宅は20分後になってしまう。作る時間も入れると、もっと時間がかかります。3件、4件となったら、苦情だらけです。評判を落とさないようにスタッフやバイクを増やす必要が生じ、採算が合わなくなってしまうのです。
配達経路を徐々に広げていく
では、どうすればよいか。店から半径350mで第1次商圏の円を描いたら、その円をA、B、C、Dの 4ゾーンに区切ります。この中で最もマーケットが大きそうなゾーン1つだけを選んで、注文を多く見込めそうな集合住宅から店までの経路(配達の動線)沿いにだけポスティングをするのです。そうすると、その最も注文頻度が高い集合住宅から実際に注文が来たときに、途中の経路沿いの住宅から注文があると、同じ便でお届けすることができて、無駄が少ない。1人でも配達ができるのです。
最初はこうして範囲を絞る。そして、地域の大きな白地図を壁に貼って、配達をしたことのある場所にピンを打っていきます。慣れてきたら、最初に定めたAならA、BならBのゾーン内で、最初の経路と行き来しやすい隣のエリアにポスティングをして、配達エリアを広げていきます。「配達ルートありき」で範囲を徐々に広げ、スタッフが足りなくなってきたら、スタッフを増員し、バイクの数を増やしていくのです。
コロナ禍で明らかになった潜在ニーズ
自前ではそこまでやり切れないと考える店舗は、専門業者への委託も視野に入れてはいかがでしょうか。
「Uber Eats」や「出前館」などの専門業者の場合、店側は代金の35%以上の手数料を徴収されます。この手数料では利益が出ない場合、同じメニューで、デリバリーは、手数料の一部またはすべてを上乗せした価格設定にするのです。実際、イートインでは1800円で提供しているメニューを、デリバリーでは2800円に設定して、多くの注文を集めている洋食店があります。
「そんな高い値付けで需要があるのか」と疑問に思うかもしれません。でも、在宅勤務の普及で、「美味しい料理を食べたいけれど、お化粧をして、着替えるのは億劫だから、自宅に届けてもらいたい」というお客様がかなりいらっしゃいます。今は、少しでも売り上げを確保したい状況です。デリバリーをしていないと、こうした巣ごもり需要を取りこぼすことになってしまいます。
「自治体の補助を利用して自前のデリバリーを始める場合の費用と手間」と、「デリバリー専用の価格を設定し、手数料を払って専門業者に頼む場合のコスト」を軸にコスト計算をして、デリバリーの導入方法を検討してみてください。
テイクアウトは食品衛生に万全の対応を
次はテイクアウトについてです。テイクアウトにも、気をつけるべきことがあります。衛生に関する認識が不十分なために食品の事故が起きています。関西のカフェが善意で支援のお弁当を作って医療従事者に無料で提供したものの、食中毒が発生したという残念な事故が報じられました。加熱直後の料理を詰めた弁当箱にすぐに蓋をしたり、熱い料理をラップで包んだりすると、時間の経過とともに、細菌が繁殖してしまいます。
「そんなこと、知っているよ」という人がほとんどのはずですが、日ごろ、出来立ての料理を出し、その場でお客様が喫食する流れが当たり前になっていると、熱いうち、温かいうちに料理を容器に詰めてしまうのです。
お客様は、「店が出している商品だから大丈夫だ」と思って食べ物を口にします。ただ、無頓着な人もいます。炎天下の野球場に弁当を放置して草野球をして、5時間後にその弁当を食べてお腹を壊して店に怒鳴り込んできた、なんていう例もあります。店からすれば「勘弁してよ」という話ですが、責任を転嫁されないための自衛をしていないと、営業継続が危うくなります。
弁当類は食品表示法に基づく名称、製造者、原材料(アレルゲンも記載)、添加物、製造者などに加え、消費期限(〇月〇日〇時)と保存方法の表示義務があります。シビアな環境に放置されることも想定して消費期限は短めに設定し、保存方法の欄にも、「直射日光、高温多湿を避けて保存してください」「2時間以内にお召し上がりください」などと記載をするようにしてください。
また、店舗で弁当以外の食品を販売する場合、飲食店営業許可の範囲で売ってよい食品かどうかを確認しましょう。例えば、1食として完結する弁当のおかずとして刺身を入れているときは飲食店営業許可の範囲内ですが、その刺身を単独で販売するときには魚介類製造業の営業許可が要ります。おかずだけの販売は総菜販売業許可が必要ですし、ソース、パン・スイーツ、ハム・ソーセージなども、別途、その分野の営業許可が必要です。
レジ袋有料化への対応についても気を付けたいところです。環境性能に関する基準を満たしている製品を除いた、すべてのプラスチック製レジ袋が有料化の対象です。しかも、テイクアウト食品の消費税率は8%ですが、レジ袋は10%です。区別して売り上げを計上しましょう。無料での配布が認められている環境基準対応のレジ袋を使用することにしても良いです。
営業許可にしろ、レジ袋にしろ、「何も言われていないから大丈夫」ではありません。今はコロナ禍の混乱で当局が「お目こぼし」をしているだけです。レジ袋でいえば、税務調査の際、「こういうことがルーズな店は、他にも不備がある」とみなされて、徹底的に調査されます。ルールを守って生き残りを図りましょう。
講師紹介
- 株式会社FBA代表取締役 フードビジネスコンサルタント
石田義昭(いしだ・よしあき) - 経営コンサルタント歴30年。「無敵の飲食店づくり」をテーマに経営支援を全国で行なっている。「顧客誘導と飲食店経営」を理論体系化し、顧客心理に訴える具体的な戦術指導には定評がある。3~5坪の小さな店から大型店まで、直接指導店舗数は1,500店を超え、顧問店の中から超繁盛店・多店舗展開企業などを数多く輩出している。USJ隣接の商業施設「ユニバーサル・シティウォーク大阪」内「風神雷神」、東京ドーム「ラクーア」飲食施設、大洗リゾートアウトレット飲食施設など大規模な商業施設のプロデュースも手掛ける。
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