お客様事例fenua(フェヌア)
しまなみの海岸通りに
「日本一、気持ちいい」キッチン
「このキッチンは、海を望む、僕のアトリエであり、ステージです」と森重正浩シェフ。外壁には、今治造船の工場でタンカーの色を塗るために使われていた足場板を貼っています
しまなみ海道の大島。海辺の行き止まりにある静かな集落に、個室4室のフレンチレストラン「fenua(フェヌア)」が開業しました。店舗の設計は、世界的な建築家の隈研吾氏。海岸に面し、瀬戸内海を行き交う船を眺めながら調理できるキッチンを、森重正浩オーナーシェフは「日本一、気持ちのいいキッチン」とおっしゃいます。ジビエや香草・野草、魚介類など、地元の食材をふんだんに使った“しまなみフレンチ”のメニューが、この気持ちいいキッチンから日々、生まれています。
故郷・瀬戸内で、
地元食材を活かした
“しまなみフレンチ”
瀬戸内の山に登って海の向こうを眺めていた料理好きの青年が、高校卒業後に渡欧。フランスとイタリアの三ツ星レストランなどで4年半修業し、1991年に帰国すると、箱根のオーベルジュ「オー・ミラドー」などでの勤務を経て、1994年にオーナーシェフとして東京・奥沢にフランス料理店「ラ・ビュット・ボワゼ」を開業。2020年には、四半世紀以上に渡って愛されたこの店を畳んで故郷の瀬戸内にUターンし、「地域おこし協力隊」での活動を経て、しまなみ街道にある大島でオーナーシェフ人生の第2ステージをスタート⋯⋯。
2024年4月、愛媛県今治市大島に開業した「fenua(フェヌア)」は、持ち前の行動力で新しい境地を次々と切りひらいていく森重正浩オーナーシェフが、しまなみ海道の海沿いに構えた、個室4室のフランス料理店です。魚介、肉、ジビエ、野菜、香草・野草など、しまなみ街道とその周辺でとれる食材を使った、“しまなみフレンチ”とでも呼ぶべきコース料理を、森重シェフが1人で作り、盛り付け、ご自身でお客様にサービスします。食材は地域おこし協力隊の活動などを通じて知り合った生産者から仕入れるほか、自分で摘んできた野草なども料理に取り入れます。「狩猟免許も取得済みですので、自分で仕留めたジビエをお出しすることもありますよ」と森重シェフはおっしゃいます。
「キュイジーヌ・レジオナル」の
第一人者に師事
「いつかは自分の地元に帰って、地元の食材を使い、地元の人においしい料理を作ってあげなさい」――。森重シェフが瀬戸内でfenuaを開業したのは、フランス滞在中に師事したアルプスのオーベルジュ「オーベルジュ・ドゥ・レリダン(Auberge de l’Eridan)」のマーク・ヴェラシェフから受けたこんなアドバイスの影響が大きかったといいます。
ヴェラシェフは「香草の魔術師」などと呼ばれ、地域の素材を使った料理である「キュイジーヌ・レジオナル」の実践者です。2つの店でミシュランの三ツ星を獲得し、レストランガイドのゴ・エ・ミヨで20点満点を獲得した、伝説の料理人のお一人でもあります。「フレンチアルプスは高山植物が豊富で、アルプスの自然の植物を料理に使うことが勉強にもなりました。同時に、自分が育った瀬戸内にも、アルプスに負けないくらい、素晴らしい食材がたくさんありますので、瀬戸内の豊かさを改めて感じる機会にもなりました」(森重シェフ)。
- エントランスへのアプローチ。屋上には海を眺めることのできる展望デッキを設けています。展望デッキの下が厨房スペースです(写真左)。地元・大島の大島石をふんだんに用いています。店名のネームプレートは地元の鉄作家の手によるものです(写真右)
- エントランスへのアプローチ。屋上には海を眺めることのできる展望デッキを設けています。展望デッキの下が厨房スペースです(写真上)。地元・大島の大島石をふんだんに用いています。店名のネームプレートは地元の鉄作家の手によるものです(写真下)
森重シェフは、師匠からもらったアドバイスに、「いつかは瀬戸内で料理を作りたい」というご自身の思いを重ねて、タヒチ語で「大きな島」「故郷」を表すfenuaの世界観を作り上げていったそうです。
大島・友浦地区の海岸沿いに広がる300坪の土地は、「店をやるならここしかない」と一目ぼれした場所で、地域おこし協力隊の活動で知り合った地元の民生委員に地主さんへの橋渡しを依頼し、譲り受けたものだそうです。建物は、世界的な建築家で、大島の亀老山(きろうさん)展望台を設計していた隈研吾氏に、地域や料理への思いを綴った長文の手紙を出し、設計を依頼。快諾いただいた隈氏や隈研吾建築都市設計事務所のスタッフとともに、地元にゆかりのある建材を随所に採り入れた店舗空間を形に落とし込んでいかれました。
- 客席は全て個室で4室。右写真の窓は、隈氏がミリ単位で位置と寸法を決め、美しい友浦の風景を絵画のように見せるピクチャーウィンドウになっています
- 客席は全て個室で4室。下写真の窓は、隈氏がミリ単位で位置と寸法を決め、美しい友浦の風景を絵画のように見せるピクチャーウィンドウになっています
客船を眺めながら、
快適なキッチンで調理
瀬戸内に戻って店を開くことの他に、森重シェフはもう一つ、「いつかは」と思っていた構想をfenuaの店づくりに反映なさいました。
「いつかは、瀬戸内の海を見ながら調理をしたいと思っていました」(森重シェフ)。fenuaの厨房からは、友浦の海を眺めることができます。「目の前の消波ブロックで知り合いの漁師さんがサザエを獲っているのが見えますし、タンカーや客船が通ると、調理の手を止めて、『どこの国の船かな?』と双眼鏡を覗きます。お客様からは『シェフが店で一番いい場所を取っているんじゃないの?』と冷やかされます」(森重シェフ)。
fujimakはfenuaの厨房の設計と施工をお手伝いさせていただきました。「fujimakの担当者とは30年来の付き合いで、これまで3つの厨房を作ってもらっています。今回は、『海の見えるスペースで、1人で調理ができる効率的なキッチンにしてほしい』との要望を伝えて、あとは全てお任せしました」(森重シェフ)。
清潔で、働きやすい環境作りの一例が、床面の工夫です。「足元に排水用のグレーチングがあると、滑らないかと気を遣いますし、疲れます。この店では、私が作業をする床面にグレーチングがありません。掃除機をかけ、モップで拭きあげているだけで、常にドライで衛生的な環境になるので満足しています。水を使って掃除する場合も、調理動線から外れた、見えない所に排水溝を配置してもらいましたし、グリストラップも、厨房床面の外に設置するなど工夫されています」(森重シェフ)。
- 海の見えるキッチン。調理台の高さは床面から92㎝。「私の身長は171cmですが、これぐらい高い方が、腰に負担をかけることなく仕込みや盛り付けができます」(森重シェフ)
「店舗を設計する隈事務所とも、プロ同士で連携してくれて助かりました。また、細かいことを言わなくても、これまでの経験を生かして、清潔な状態を保ちながら、疲れにくく作業のしやすい厨房に仕上げてくれたと思っています。キッチンに興味のあるお客様をキッチンにご案内するたびに、フラットに仕上がった厨房の完成度の高さを再認識して、誇らしく感じています」と森重シェフはご評価をしてくださいました。
また、加熱機器は、コンビオーブンの最もコンパクトなサイズ(「iCombi Pro FICPXS」)をご採用いただきました。「東京の店舗でもいわゆるスチコンを使っていましたが、久しぶりに新しい機種を入れてみて、機能の進化に驚きました。温度管理が精緻で、プログラムをセットしておけば自動で加熱調理をして、終了時も教えてくれます。盛り付けやサービスをしていても、音が聞こえて『あ、仕上がったな』と分かります。いろんなことができるので、使いこなしていくのが楽しみですね」(森重シェフ)。
- 加熱機器や冷機器を数多くご採用いただきました。冷蔵庫の下に掘り込んだ排水スペースから水が流れるようになっています(写真右)
- 加熱機器や冷機器を数多くご採用いただきました。冷蔵庫の下に掘り込んだ排水スペースから水が流れるようになっています(写真下)
「国内外のいろいろなキッチンで仕事をしてきましたが、ここの厨房が、私にとっては『日本一、気持ちいい厨房』ですよ」と森重シェフ。そんな厨房に立つ毎日は、新たな発見に満ちているそうです。昼1万6500円、夜1万3200円(いずれも税サ込み)のコース料理主体という、カジュアルではない価格設定ですが、森重シェフの料理を求めて、地元を含め、東京方面から多くのお客さんが訪れているそうです。
「先日も地元の94歳のご婦人お二人が、お孫さんと一緒にお越しいただき、きれいに完食なさって嬉しかったですね。しまなみ街道を走ってきたという女性がロードバイクを店の前に停めて食事を楽しまれたこともありますし、近くのキャンプ場でテント泊をしながら、ワインと食事を満喫なさったご夫婦もいらっしゃいます。日本も、ご自身のスタイルに合わせた食の楽しみ方が広がっていることを実感できますよ」(森重シェフ)
- 瀬戸貝(イガイの地方名)と、厨房から見える消波ブロックで漁師さんが獲ったサザエを手に。「瀬戸貝は弾力があって、いいダシがとれます。サザエは、きれいな海の海藻を食べているのでキモがすごくおいしいです」(森重シェフ)
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