更新日:2024年12月18日
もう迷わない!
SNSとの付き合い方
~新規客獲得のために
取り組むべきこと~
「Instagram(インスタグラム)やX(旧Twitter)を始めて毎日投稿しているが、フォロワーが増えず、『いいね』の数も伸びない。続ける意味があるのだろうか」。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)について、こんな悩みをお持ちの経営者やオーナーシェフの方は多いようです。SNSは新規客の獲得に役立つのでしょうか。役立つとすれば何に取り組むべきなのでしょうか。飲食店経営のコンサルティングを手掛けるフードアカウンティング協会の遠山景子氏に、SNSの普及が飲食店の経営にもたらした変化と、その変化に対応するために飲食店がすべきことをうかがいました。
「ホームページの時代」と、
情報伝達の建て付けが変わっている
「SNSで情報を発信しているのに、なかなか見てもらえない。新規客も増えない」という声をよく聞きます。どこに問題があるのでしょうか。
SNSの普及によって、ウェブを活用した情報伝達の建て付けが様変わりしている点を認識する必要があります。SNSが普及する前、飲食店によるウェブ活用といえば、事業主が自店の情報を発信するサイトを作り、それを消費者がパソコン(のブラウザー)で見るという枠組みが一般的でした。飲食店のホームページや、飲食店検索サイトなどがこれに該当します。この枠組みでは、情報の送り手と受け手の関係性は、基本的に一方通行です。
しかし、SNSが普及した現在は、InstagramやX(旧Twitter)、Facebookといったコミュニケーションの“場”が提供され、利用者が情報の受け手にも送り手にもなって、双方向でコミュニケーションをしています。消費者のAさんは、飲食店に行って写真や動画を撮り、それをSNS上に投稿します。かつて情報の受け手だった人が、情報の発信者にもなるわけです。そのAさんが発信した情報を、AさんとSNS上でつながっているフォロワーや友達が見て、「いいね」ボタンを押すなどのアクションを起こして、自分とつながっている人たちと共有します。この連鎖によって、一つの情報が速いスピードで指数関数的に広がっていきます。
仮にAさんに100人のフォロワーがいれば、Aさんの情報が100人に拡散されますよね。それを見た100人にもそれぞれ100人ずつのフォロワーがいたとすると、1×100×100で、あっという間に1万人に情報が伝わることになります。まさに指数関数的な広がり方ですね。
現在、SNSでは非常に多くの情報が飛び交っています。その中では、多くのフォロワーや友達を持っている人が発信した情報、あるいはより多くの共感を集めた情報が、SNSのアルゴリズム(どの情報を優先的に表示させるかを決めるためのルール)によって、フォロワーはもちろんのこと、フォローをしていない利用者のSNSにも「おすすめ」として表示されますので、多くの人の目に留まり、より拡散されやすくなります。
「店のホームページ」のような、事業者がサイトを作って情報を発信する枠組みは、ウェブの発展段階では、「Web1.0」と呼ばれています。これに対して、SNSによる情報伝達は「Web2.0」の段階に属します。冒頭のご質問で言えば、Web2.0のコミュニケーション手段であるSNSのFacebookやInstagramを使って、消費者に「うちの店の情報を見てください」と、一世代前のWeb1.0のやり方でアプローチをしていることになるわけです。「SNSを始めました。フォロワーはいません」という店舗が何かを発信しても、あふれる情報の中で埋没してしまい、拡散の流れには乗りづらいのですね。
お客様が感動し、「伝えたい」と
感じるメニューはありますか?
情報が拡散されるためには、その起点となる情報を、店ではなく、SNS上でいろいろなつながりを持っているお客様が発信することが欠かせないわけですね。
ポジティブな情報は、そこに何らかの感動が乗って初めて、発信され、広がっていきます。来店したお客様が料理やドリンクなどに心を動かされ、「誰かに伝えたい」と感じて写真を撮り、InstagramのようなSNSに載せる。それをフォロワーや友達が見て、「私も食べたい」「私もこの店に行きたい」という共感を覚え、次々と拡散されていきます。
私は、SNSが広がれば広がるほど、飲食店の原点回帰が起きると思っています。これまでも、いいお店やメニューの情報は口コミで広がっていました。その口コミが、ネット上で、ものすごい速度で進んでいくのがSNSです。飲食店は、宣伝で人を呼ぶのではなく、本当にいいメニューを作る方法を考えればよいのではないでしょうか。きちんと料理に向き合っているお店が報われる時代が訪れつつあると言えると思います。
DX化による省人化で
「客引きメニュー」の原資を作る
問題は、感動を与えるような魅力的なメニューをどのようにして作るかです。食材費や光熱費、人件費など、あらゆるコストが上がっている時代ですから、なかなか難しいです。
方法は二つあると思います。一つはDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術の活用による業務変革)によって省人化をし、材料費にかけられる費用を増やすことです。省力化にとどまらず、従事する人の数を減らせるようにすることがポイントです。
セルフオーダーやセルフ会計のシステムを導入したり、高い精度で自動調理ができる厨房機器を活用したりして、従来よりも少ない人数で店の運営が回る仕組みを作る。今の時代、競争力のある賃金を払わないと人は集まりませんし、定着もしませんから、1人あたりの給料は増やす。それでも、人の数が減れば従来に比べて人件費の合計はある程度減ります。DXによる省人化で生み出した、この人件費の削減分を材料費に回すわけです。65%などに設定してあるFLコスト(食材原価と人件費の合計)の数字は変えることなく、その内訳を変えるというアプローチです。
並行して、メニュー全体の中で、原価を多くかけるメニューと、原価をかけないメニューのバランスを考えます。まず、お客様を引っ張るための「客引きメニュー」を作り、そこに原価をかけて、お客様に感動を与えましょう。例えば特定のメニューにあと10ポイント分、原価を多くかけられれば、理想に近い、よりお値打ち感のある商品を作れるのではないでしょうか。
店舗でそろえるべきメニューには、客引きメニューのほか、原価率の低い「利益確保メニュー」、その業態ごとの「定番メニュー」、「季節・イベントメニュー」などがあります。そのバランスを考えていきます。1品ごとにそのメニューを提供する目的を明確にして、メニューを組み立てていきます。
メニューの種類 | 特性 | 原価率 |
---|---|---|
客引きメニュー | 感動を与えるような特徴を持ち、そのメニュー目当ての集客が見込める お値打ち感の高いメニュー。1品~3品程度をそろえる |
高め |
定番メニュー | 店舗の業態を聞いてお客様が想定する、一般的なメニュー。 客単価確保と利益の確保にも貢献するようにそろえる |
低め |
利益確保メニュー | 定番メニューの中で、お客様が「つい、頼んでしまう」メニュー。 価格を他店と比較されにくいよう、素材などの面で独自性を出す |
低め~中間 |
季節・イベントメニュー | 季節やイベントに応じたメニュー。日替わりや月替わりメニュー、 フェアなども含まれる |
適宜 |
食べ方のシミュレーションをし、
利益確保メニューを組み込む
客引きメニューをお客様にSNSで発信してもらうために、何らかのアピールは必要でしょうか。
アピールの必要はありません。お客様は、値段よりも価値のあるメニューを前にして、「この店は本当に料理が好きで、おいしく食べてもらおうとしている」と店側の熱意を感じると、その感動を残そうとして、あるいはその感動を誰かに伝えようとして写真を撮ります。その写真やコメントが黙っていてもSNSで広がり、そのメニュー目当てのお客様が来店なさいます。
省人化によって原資を捻出しているとはいえ、客引きメニューだけを注文するお客様が増えると採算がとれなくなってしまいますので、アピールの必要があるのは原価率の低い、利益確保メニューの方です。飲食店で定番に属するメニューの中には、お客様が「メイン料理と一緒に、当たり前のように注文をしている」メニューがあるはずです。居酒屋であれば冷奴や枝豆、フライドポテトなどでしょうし、韓国料理ならチャプチェやチヂミなどがこれに該当すると思います。こうしたメニューでは、素材やその組み合わせなどでオリジナルの要素を加えて他店と価格が単純に比較できないようにした上で、利益をきっちり取りましょう。多少割高でも、客引きメニューにお値打ち感があれば、お客としては「許せる」範囲なので、注文してくださいます。
メニュー構成を考える上では、「当店に来店なさった方に、こういう食べ方をしてもらいたい」という、注文の流れに沿ったシミュレーションが欠かせません。その流れの中で利益確保メニューを選定し、アピール方法を考えていきます。店内にPOPを掲示する、セールスポイントを分かりやすい言葉で表現して差し込みメニューに載せる、メニューブックでの扱いを大きくするなど、頼んでみたいと思わせるきっかけを作ります。チェーン店はこのシミュレーションとアピールを丁寧にやっていますので、参考にするとよいでしょう。
客引きメニューを作る上で、力を入れるべきポイントについて教えてください。食材の品質、ボリューム、盛り付けなどが、その切り口として挙げられると思います。
いずれもそのとおりですが、業態によってどこに力を入れるかは変わってきます。例えばとんかつであれば肉の厚さでしょうし、フランス料理なら盛り付けの美しさとなるでしょう。加えて、提供時に「わーっ」と声が出るようなシズル感も必要な条件の一つです。味の良さはもちろん必要ですが、お客様はそのメニューを口にする前に写真を撮りますよね。また、味は写真では伝わりません。ですから、目の前に運ばれた時点で感動を与えることが求められます。
客引きメニューの選定に迷う場合は、一番売れているメニュー、あるいは一番自信があるメニューをブラッシュアップしてみてください。本来、原価をかけたかった部分にきちんと原価をかけて、本来の理想に近づけていけばよいのです。
SNSの普及で、
来店客の集中化が進む
ここまでのお話をうかがっていて、SNSの普及が、店舗運営そのものの見直しを迫る契機になっていると感じました。
飲食店の基本である、来店なさったお客様一人ひとりに喜んでいただくことが何より重要です。SNSでは良くも悪くも情報が一気に拡散されますので、SNSの普及が進めば、お客様が特定の店に集中する傾向が強まっていくはずです。所得が上昇傾向にあるとはいえ、インフレが進んでいますので、お客様は使えるお金が増えたわけではありません。せっかくお金を使うのであればいい店に行きたいので、情報を集めます。SNSを見ます。「この人がおいしいと言っていた」という店により多くのお客様が集まる。これは、自然な流れではないでしょうか。
SNSを店舗とお客様とのコミュニケーションツールとして利用している飲食店も多いです。「このSNSを使えばいい」といったお勧めはありますか。
冒頭で、SNSで店舗の情報を発信しても、新規客の獲得にはつながりにくいと言いましたが、お客様とのコミュニケーションツールとしての活用を否定しているわけではありません。日替わりメニューや季節のメニューの紹介から定休日の告知に至るまで、店舗がお客様に伝えたい情報を伝えることができますし、それらの告知を無料でできるのが大きな魅力です。やるか、やらないかで言えば、絶対にやった方がよいと思います。どのSNSを利用すべきかについては、絶対的なルールが存在するわけではありません。女性の利用が多いのがInstagramで、男性はXの利用が多いという傾向はあるようです。自店の常連さんの多くが利用なさっているSNSを選ぶとよいのではないでしょうか。
相談員遠山景子(とおやま・けいこ)
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