元料理長が教える 今さら聞けないHACCP講座
第6回
レシピを活用しよう
今回はHACCP導入の7原則12手順に関する実務について、より実践的なお話をしたいと思います。
更新日:2019年01月21日
HACCPを導入するとき、HACCPチームは気負い過ぎてはいけません。従来の仕組みをご破算にしてゼロから新しい仕組みやルールを作ろうとすると、プロジェクトが大きくなりすぎて時間や費用が掛かるだけでなく、オペレーションの変更が増えすぎて現場スタッフの理解を得ることが難しくなります。今のやり方が衛生的に危ない場合は別ですが、できるだけ今あるシステムやツールを生かす形で導入を進めるとよいでしょう。
私がお勧めするのは、すべての調理スタッフにとって使い慣れたルールであるレシピをHACCP導入の土台とする方法です。レシピをベースに、HA(危害要因分析)やCCP(重要管理点)設定など、7原則12手順のうちの「原則」1~7の各検討結果を肉付けしていくのです。
レシピ(和食なら割帳)をもとに、まずはそれぞれの工程をどこのセクションが担当しているかを明確にします。そしてメニューごとに危害要因を分析して、その危害要因をコントロールするCCPを決めて、レシピに書き込んでいきます。さらに、アレルギーに関する情報もこれに加えます。こうしてレシピを発展させたSOP(標準作業手順の書類)を、レシピと、「危害が発生する可能性のある工程の管理情報」とを集約した統合的な資料として、日常的に活用するのです。施設など全般的な衛生管理については別途、SSOP(衛生標準作業手順書)を作成します。
CCPは広い視野で考える
この検討をしていくとき、CCPの設定、すなわち、喫食可能になるように菌数を減らしたり、ウイルスを不活化させたりする重要管理点の工程をどこに設定すればよいかについて、悩むことが多いと思います。CCPは、洗浄や加熱など、そのポイントはいろいろ考えられますが、通常の調理の流れでそのポイントを見いだせない場合、より検討の範囲を広げることで、打開策が見つかることがあります。
理解しやすいように参考例を挙げます。カキフライのレシピを作ったとします。カキフライで危害要因となるのは、二枚貝である牡蠣に蓄積されているノロウイルスです。ノロウイルスが感染性を失う(失活化)条件は中心温度85℃で1分間以上の加熱ですが、失活化をより確実なものとするために、中心温度85℃~90℃で90秒以上の加熱が必要とされています。通常は、加熱工程をCCPとして、管理基準を85℃・90秒以上の加熱とすればよいということになります。
しかし、中心温度85℃・90秒以上の加熱をすると、カキフライの食味が落ちます。料理を提供する側としては、もっと芯温を下げたいところです。どうすればよいでしょうか。
高温での加熱が必要なのは、牡蠣にノロウイルスがついている可能性があるからです。それならば、ノロウイルスが付いていない牡蠣を仕入れて、ウイルスを付けないよう適切な取り扱いができれば、そこまで温度を上げなくてもよいということになります。
ノロウイルスフリーの牡蠣を仕入れる場合、ノロウイルスがついていないことを証明するメーカー発行の品質証明書と、自分たちの施設での食材検査で食材の安全性を担保して、加熱温度の課題をクリアします。その際のCCPは、「ノロウイルスフリーの牡蠣であること(ノロウイルスフリーの牡蠣を仕入れること)」となります。このように、仕入れから提供までの工程全体の中で、CCPを検討していくことが重要です。
代替案を探すことが有効なのは、一般衛生管理でも同じです。例えば、交差汚染を防ぐために、包丁は肉専用、魚専用などと使い分けることが推奨されます。しかし、備え付けの包丁ではなく、こだわりのある高価な「マイ包丁」で調理をする料理人もいますね。ただ、マイ包丁を何本も持っている料理人は少ないです。
マイ包丁を持っている人ほど、高いポジションであることが多く、担当者も「備え付けの包丁を使ってください」とは言いにくいものです。これは一つの考え方ですが、予算が許せば、UV照射などによって包丁を殺菌する保管庫を備え付け、使う度に殺菌することをルールにすれば、同じ包丁を使っていても、交差汚染のリスク低減が期待できます。
講師紹介
- 元ハイアットリージェンシー東京 調理部長、全日本司厨士協会幹事会員
坂場一昭(さかば・かずあき) - 1952年1月東京生まれ。70年から調理の道に入る。京王プラザホテルを経て、80年にセンチュリーハイアット東京(現ハイアットリージェンシー東京)に入社。ガルドマンジェアシスタントシェフ、宴会シェフ、宴会厨房改修プロダクトマネジャーや調理部長、食品衛生担当課長などを歴任。日本エスコフィエ協会会員、全日本司厨士協会幹事会員。
提供 (株)フジマック 無断転載を禁じます。